© 士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊2045製作委員会
© Shirow Masamune, Production I.G/KODANSHA/GITS2045

KODANSHA
FEATURE_
デリック・メイ Derrick May
2024.07.18Interview
SHARE

「俺は義体化したくない」。サントラ発売から27年、“テクノの重鎮”のデリック・メイが語る攻殻機動隊の魅力

文・浅原聡 通訳:渡辺健吾 撮影・グレート・ザ!歌舞伎町

デトロイト・テクノを世界に広めた伝説的DJのデリック・メイが約5年ぶりに来日。5月25日に行われた音楽イベント『DEEP DIVE in sync with GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』でヘッドライナーを務め、圧巻のDJプレイでZepp Shinjukuに集まったファンを熱狂させた。デリック・メイは、1997年に発売されたPlayStation用ゲームソフト『攻殻機動隊~GHOST IN THE SHELL~』のサウンドトラックにも参加しており、先鋭的な楽曲を提供することでクラブカルチャーと原作ファンの架け橋となった存在。制作当時の意気込みや『攻殻機動隊』への思いを探るため、イベントの数日前にインタビューを行った。

——デリックさんはゲームソフトのサウンドトラックに参加される前から『攻殻機動隊』のことを知っていたのでしょうか?

 

デリック・メイ(以下:デリック) そうだね。アニメ版も原作漫画も好きだったし、我ながらかなりのファンだったと思うよ。1995年に『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』が公開された当初は作品の本質を理解できなかった人も多かったと思うけど、今でも歴史に埋もれることなく愛され続けているよね。この作品が長年に渡って築いてきたレガシーには本当に感銘を受けるよ。

デリック・メイ Derrick May

 

——’80〜’90年代は人間と機械の融合を描いた作品が世界中でブームを巻き起こしていました。デリックさんも“サイバーパンク”と呼ばれる作品に触れることが多かったですか?

 

デリック 『AKIRA』も好きだし、そういえば昔、深夜に原宿で呑んでいたら、アニメ版の監督と会ったことがあるよ。サイバーパンクに影響を与えたものとしては、アルビン・トフラーの著書『第三の波』も面白かった。『攻殻機動隊』で描かれる情報革命も刺激的だったし、ゴーストという概念も自分なりに想像力を働かせてイメージすることができたよ。

 

——『攻殻機動隊』の中で好きなキャラクターを教えてください。

 

デリック 義体化されていない純粋な人間であるトグサが好きだね。身体能力も情報の分析力も義体化してる他のメンツに勝てるわけがないのだが、それでも自分にできることを必死に探している。そうやって勝ち目のない戦いに挑む“アンダードッグ”が俺は好きなんだ。公安9課の仲間たちもトグサのことが好きだし、彼の努力をリスペクトしているよね。

 

——もともと『攻殻機動隊』のファンだったとはいえ、ゲーム版のために音楽を作ることは当時のデリックさんにとって大きな挑戦だったのでは?

デリック・メイ Derrick May

 

デリック プロジェクトに参加することを最初に誘ってくれたのはミスター弘石(UMAA株式会社代表の弘石雅和。当時は音楽プロデューサーとしてソニーミュージックに所属)だ。すごく光栄だったよ。もともと映像作品のために音楽を作りたいと思っていたから、素晴らしい足がかりになると思ったんだ。あの時に作った『To Be or Not to Be』という曲は今でも気に入っているよ。

 

——『To Be or Not to Be』の制作において、それまで作っていたダンスミュージックとアプローチを変えた部分はありますか?

デリック・メイ Derrick May

 

デリック そうだな。俺が目指していたのは、リスナーの耳が耐えられる周波数の実験をすることだった。フェイジング(音の位相の調整することでうねりを生じさせるテクニック)を多用したから、音源をそのままレコードにすることができず、レコード会社は頭を抱えたらしい。当時のソフトウェアでは俺が理想とするサウンドを再現することが難しかったんだね。だから個人的な見解では、『To Be Or Not To Be』はモノラルでマスタリングされてリリースされたようなものなんだ。最初のリリースから27年経ったけど、いつの日か、みんなが本当の音を聴けるようになったら嬉しいね。

 

——今回は音楽イベント『DEEP DIVE in sync with GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』でプレイされますが、どんな意気込みで準備していますか?

 

デリック オーディエンスに対して、自分が出せる最高のパフォーマンスを披露することしか考えていないよ。精神的に、音楽的に、本番に向けて徐々に準備を整えているところだ。日本に戻ってプレイできる幸せを噛み締めたいね。すでに福岡や北海道でプレイしたんだけど、どちらのパーティーもすごく良かった。コロナ禍を経て、日本のダンスミュージック・シーンも大きく変わったと思う。10年前や5年前と比べて、どのように変わって、どんな位置にいるのか? その答えを滞在中にじっくり探したいと思っているよ。

 

——攻殻機動隊は人間と機械の融合を描いた作品で、最新シリーズの『攻殻機動隊 SAC_2045』はフル3DCGなど最新のテクノロジーを使って映像化されています。音楽業界でもAIやメタバース空間が注目されていますが、デリックさんは今後も新しい技術と親しくしていきたいと思っていますか?

 

デリック 少し歴史を振り返ってみよう。俺やホアン・アトキンス(デトロイト・テクノの創始者)、もしくはシカゴ・ハウスの連中が出てきたとき、旧来のアコースティック楽器を演奏していたミュージシャンやバンドは、どのように感じただろうか? 拒絶反応を示したかもしれないね(笑)。俺個人としては、新しいテクノロジーが出てくることには興奮を覚えるよ。未来は必ずやってくるわけだから、それを支持するべきだと思う。ただ、若い世代には、音楽に限らず、機械に丸投げして何かを作るようなことだけはしてほしくないね。それだけが気がかりなことかな。俺たちのような世代は、創造的な人間であることの素晴らしさを思い出させる役目を担うべきだ。そして、新しい技術が、他者を傷つけたり騙したりするために使われないことを祈っているよ。

 

——デリックさんは、自分の脳だけを残して全身を義体化することに興味がありますか? それができれば、永遠にDJをしたり、音楽を作ったり、人間業ではないすごい技術を駆使することも可能かもしれませんよ。

デリック・メイ Derrick May

 

デリック いやぁ、ないね。人間は不完全な生き物だからこそ、必死に努力しなきゃいけない。だからこそ、俺は人間であることが好きなんだ。いいか? きっと20年後には、自分の車を自分で運転することが、時代遅れのバカげた行為になっているぞ。人間であることの不自由さを楽しめなくなるかもしれないぞ? 実際、そんな未来がどんどん近づいている気がするよ。SNSなどによって、自動運転が素晴らしいという概念がどんどん植え付けられて、そういう新しい世代の精神性が我々の考え方をコントロールしようとして、そこから外れようとすると悪人のように扱われてしまうだろう。テクノロジーが世界を内側から変えてしまうかもしれない……。『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』が“人形使い”というメタファーで表現した社会の構図が、SNSによって具現化されてきたと考えることもできるよな。未来の行方は分からない。それでも俺は、できる限り自分の個性を貫いて、異なる人間であり続けることを大事にしていきたいと思っているよ。

デリック・メイ Derrick May

 

 

デリック・メイ Derrick May

1963年4月6日生まれ。1986年に自身のレーベルであるTRANSMATを立ち上げ、「Nudo Photo」「The Beginning」「Icon」「Beyond The Dance」「Strings of Life」などの傑作を次々と発表。デトロイト・テクノのオリジネ—ターとして世界中のダンスミュージックシーンに多大な影響を与える。

 

【ニュース】1997年にアクション・シューティングゲームとしてPlayStationⓇでリリースされた『攻殻機動隊~GHOST IN THE SHELL~』のゲーム・サウンドトラック2枚組CD『攻殻機動隊~プレイステーション・サウンドトラック MEGATECH BODY CD., LTD.』が待望の再発売へ。詳細はこちら