© 士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊2045製作委員会
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KODANSHA

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2023.10.31Interview
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interview #02

原作者・士郎正宗が語る『攻殻機動隊』#02

文・ヤングマガジン編集部

単行本や副読本などで作品について説明することはあったが、士郎正宗がインタビューという形で『攻殻機動隊』について語ったことは、皆無に等しい。’95年の『GHOST IN THE SHELL /攻殻機動隊』公開時に「ヤングマガジン」誌面で押井守監督と対談をしているが、映画についての話がメインで、マンガのことは語られていない。ヤングマガジン増刊「赤BUTA」の記事も、大半がマンガ家の仕事についてのインタビューで最後にほんの少し作品に触れている程度だ。その後、フランスのGlénat社経由で依頼があったインタビューだが、表現と絵の描き方についての質疑応答なので、マンガの内容については触れられていない。
つまり士郎正宗がマンガ『攻殻機動隊』について、インタビューという形で詳しく語るのは、今回が初めてとなる。作品を描くことになったきっかけから、注目している最新技術まで、30年以上の時を経て原作者自らが『攻殻機動隊』を語った(全3回)。

#02 伝わらなかったから生まれた表現方法

――研究者の方々の話題から情報を得られてもマンガを描くには絵が必要になります。絵のアイディアはどこから得られていますか。

 

士郎 たとえば電脳空間でサイバーの細い線のリングでできたものがいっぱい並んでいる絵がどこからきたんだろうというのを自分で考えたことがあります。2段階になっていて、近いほうでは松本零士氏の『銀河鉄道999』で、機関車のメーターがたくさん並んでいる絵です。理屈はわかりませんが、丸いものが並んでいるという状態に電脳空間のリングの機能のようなものを感じました。もう一段前は父親の仕事です。父親が印刷会社で文字を書いたりする仕事をしていて、家に絵の具を入れた丸い瓶がずらっと並んでいました。物心ついたときから、その状態を見て、「あれはなんだろう」と思っていました。綺麗な色の丸いものがいっぱい並んでいるところに、夢とか自分にわからないものを感じていて、丸いものがいっぱい並んでいたらSFっぽいという概念ができたわけです。だから松本零士氏の絵に惹かれて、不思議な未知の空間みたいなものを描くときに、「どういうイメージがいいだろう」と考えるとリングが並んでいる絵が出てきたんだと思います。

 

――首の後ろに有線するアイディアは、当時画期的だったと思いますが、どこからヒントを得たのでしょうか。

 

士郎 当時、無線接続というのがなかなか伝わりづらかったんです。『アップルシード』で警備ロボットが無線で乗っ取られるというシーンやコントロールセンターにいるオペレーターたちがパソコンの画面を見てて、視覚で乗っ取られるというシーンも描いてるんですが、これが伝わりませんでした。携帯電話もスマートフォンも持っていない時代で、データを送信するときは線で繋ぐしかないということになりました。線で繋がっていれば目で見てわかるので、『攻殻機動隊』のときには、頸椎に有線接続するという表現方法を採用しました。

攻殻機動隊 士郎正宗 インタビュー 有線接続 草薙素子

『攻殻機動隊』より (著/士郎正宗、発行/講談社)

 

また頚椎を選択したのは、終脳よりも神経核の近くのほうが効率や熱管理が容易ではないかと思ったからです。また大脳の近くはいろいろと混雑しているため、通信装置や電源供給関連機器を配置しにくい、というのもあります。

 

――ギリシャ神話だったり、日本神話だったり、いろんな神話を採用されますが何か理由はありますか。

 

士郎 古代ギリシャの時代にあった、哲学、文学、演劇などの基本的な考え方や、一神教的な価値観と多神教的な価値観のせめぎ合いが、現代においても大して変わりなく続いていると考えています。ギリシャだけでなく、エジプト、インド、ケルト、ゲルマン(北欧神話系)、もちろん日本もそうですが、世界にはいろんな神様がいました(人々の概念の中に)。そして、神々について語り広めていった吟遊詩人たちがあれこれ解釈して語るさまが、昨今SNSなどで真偽玉石混交でみんなが自由に発信している様子に若干被る気がしています。

 

――神様がいろいろ存在しているように、『攻殻機動隊』にも多くの魅力的なキャラクターが存在します。「物語世界観」を決めたあと、どのように配置されたのでしょうか。

 

士郎 主人公の草薙素子は先ほどお話ししたテーマからある程度決まっていましたが、一番困ったのがバトーだったと思います。部下だけど対等な感じの存在感をどういったキャラクターで出せばいいのか悩みました。もっとマジメで、硬い人物でもよかったのですが、それだと縦の関係になってしまいます。脇で支えつつも軽い会話が成り立つ関係性がいいなと思いながら、なかなか落とし所が見つからなかったのを記憶しています。最初の設定ではもうちょっと上から目線で、先輩風を吹かしているような、もう少し偉そうな感じのキャラクターだったと思います。『攻殻機動隊ARISE』のイバチやライゾーのようなニュアンスで、主人公が突出しないようなキャラクターを考えていました。

攻殻機動隊 士郎正宗 インタビュー 劇場版 攻殻機動隊ARISE border1

劇場版『攻殻機動隊ARISE』 border1より

 

――トグサは?

 

士郎 他のキャラたちが親切に説明してくれないベテラン専門家ばかりなので、トグサのような説明解説誘導役が必要だったということ。また、一定範囲内での異端者を容認する組織であることの提示という意味もあります。ドジっこキャラという意味では草薙もバトーも結構マズい失敗を作中でやらかしています。

 

――バトーとは逆に描きやすいキャラクターは誰でしょうか。

 

士郎 それはフチコマです。あくまで個人的な印象ですが、多くの場合、マンガはキャラクターや物語の起承転結など、精密に設計され、作者や編集者によって細かく計算され制御されています。が、別の方法として、講談社さんのマンガスクールでちばてつや先生は、キャラクターの自動性に関して、キャラクターを決めればキャラクターが自分で行動し始めてくれると。キャラクターの自動性に委ねて、作家がそれに乗っていくみたいな作り方もあるよとおっしゃっているのですが、フチコマだけはそっちタイプのキャラクターなので、勝手に動いてくれて楽でした。

 

#03 これまでもこれからも『ライフゲイム』 につづく

 

 

士郎正宗 SHIROW MASAMUNE

漫画家・イラストレーター。1982年にマンガやイラストの分野で活動開始。以降主な作品として『アップルシード』『ドミニオン』(1984年〜青心社)『攻殻機動隊』(1989年〜講談社)『紅殻のパンドラ』(2012年〜KADOKAWA)の原作者。アニメ家としての主な作品は『ブラックマジックM66』。そのほか、ゲームや画集などさまざまな制作分野で活躍。