© 士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊2045製作委員会
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KODANSHA

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2024.03.20Interview
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interview #04

荒牧伸志が実感した「士郎作品と3DCGの相性」                    ―最新技術が引き出す『攻殻機動隊』の魅力と今後の展望― #01

文・浅原聡 撮影・山谷祐介

「同人誌時代から士郎さんのフォロワーだった」と語る荒牧伸志。2004年に監督を務めた『APPLESEED』は、モーションキャプチャーを導入した世界初の3Dライブアニメとして注目を集めた。メカニックデザインのセンスや知識、そして最新の技術を用いることで原作の魅力を引き出す手腕は、神山健治とダブル監督を務めた『攻殻機動隊 SAC_2045』でも発揮されている。どちらも荒牧が自分から行動を起こすほど「やりたかった作品」だが、そこまで情熱を注ぎたくなる士郎正宗作品の魅力とは? 原作への思い入れや制作現場での悲喜こもごもはもちろん、続編の可能性や今後の展望も語ってもらった。

#01 『攻殻機動隊』はわかりやすい作品だ

――荒牧さんが『攻殻機動隊』に出会ったのはいつ頃ですか?

 

荒牧伸志(以下:荒牧) もともと僕は士郎正宗さんが同人誌で作品を発表していた頃から追いかけていて、『ブラックマジック』も読んでいました。仲間から「関西に凄い作家がいるらしい」という噂を聞いて手に取ってみたら、想像以上に凄い作品で圧倒されましたね。その後、共通の知人がいることがわかり、僕が勤めていたスタジオに士郎さんが遊びにきたこともあって。おそらく1988年頃だったと思うのですが、「ヤングマガジンで新しい連載を始める」という話を聞いてワクワクしました。このエピソード、士郎さんは覚えてないみたいですけど(笑)。その時に話していた連載が『攻殻機動隊』だったわけで、僕は単行本が発売される日を待って一気に読みました。

 

――初めて読んだ時に抱いた感想を教えてください。

 

荒牧 当時ブームだったサイバーパンクのド真ん中を突き進んでいる印象でしたね。すでにSF映画の金字塔である『ブレードランナー』が世に出た後で、似たようなSF小説が流行っていましたが、『攻殻機動隊』は適切な人が適切な形でサイバーパンクを漫画にした作品だなと。当時は難解な世界観に戸惑っている人もいましたが、個人的には『ブラックマジック』や『アップルシード』よりもわかりやすかったんですよ。「ヤングマガジン」という媒体に合わせて、非常にキャッチーで万人が受け入れやすい物語だと思いました。

 

――当時はインターネットという概念が社会に浸透していない時代だったと思うので、「わかりやすかった」という感想は意外です。

 

荒牧 『アップルシード』の世界に存在する複雑な概念に比べると、『攻殻機動隊』は読みやすいんですよね。その後、僕が『アップルシード』のアニメ映画を手掛けることになり、士郎さんに会って同じ感想を伝えたのですが、「その通りです」と言ってくれました。

 

――2004年に公開された映画『APPLESEED』は、フル3DCGアニメの先駆けとして大きな注目を集めました。荒牧さんが監督を務めた背景は?

 

荒牧 詳しく説明するとめちゃくちゃ長くなってしまうので、かいつまんで話しますね。当時、一緒にフルCGアニメの仕事をしていたプロデューサーがいて、その人に相談されたんですよ。「フルCGで映画を作ろうとしている案件があるんだけど、うまく進まなくて頓挫しているんですよ」と。作品のタイトルを聞いたら『アップルシード』だったので、士郎さんのフォロワーだった僕は「それ、オレがやりたいです! なんとかします!」と即答して(笑)。いざ現場に行ってテストフィルムをチェックしてみたら、なかなかヒドいものだったので、思い切ってシナリオを含めてゼロから作り直すことにしました。予算も時間も多くはなかったので、無謀な挑戦だったと思いますが、結果的に着手してから1年半で公開まで辿り着いて……我ながらよくやったと思います。

 

――監督を引き受けた時点で『アップルシード』が3DCGという手法に合っているという確信があったのでしょうか?

 

荒牧 やっぱり士郎さんの絵の魅力は密度とスピード感ですよね。僕としては、それを当時の手描きのアニメーションで再現するのは難しいと思っていて。でも3DCGを使えば可能になるのではないかという、ぼんやりとした希望を感じていました。『アップルシード』はそれを実証する絶好の機会だったんです。プロジェクトが再始動したタイミングで映像制作にデジタル・フロンティアが参加してくれたことが幸運でしたね。その頃の彼らはゲーム用のムービーを作る仕事が多くて、フル3DCGのアニメ映画は『APPLESEED』が始めてだったはず。それでも20代の若いスタッフがたくさん集まってくれて、限られた時間で素晴らしい映像を仕上げてくれました。

 

――士郎正宗さんの作品にはクリエイターの情熱を掻き立てる魅力があるのだと思いますが、それは『攻殻機動隊』も同じなのでしょうか?

 

荒牧 もちろんです。『攻殻機動隊』も絵に密度があるし、しかも劇中で描かれている近未来が妙にリアルで、ちゃんと手触りがあるんですよ。デジタルな社会が訪れた際の人間の精神性を問う場面もあり、光学迷彩など未来のガジェットを駆使したアクションもあり、キャラクターも魅力的だし、さまざまな要素が見事に融合することで、非常に精度の高いエンターテイメント作品になっていると思います。おそらく、ネットワーク技術とデジタルガジェットを絡めた本格的なサイバーパンクを描いているのは『攻殻機動隊』が一番手だったんじゃないかな。『ブレードランナー』もサイバーパンクに属する作品ですが、あの世界はネットにつながっていないんですよ。

 

――繰り返し語られている士郎正宗さん作品の“絵の密度”というキーワードについて、もう少し具体的にお話を聞かせてください。

 

荒牧 『攻殻機動隊』の原作漫画を開くと、街が高層ビルで埋め尽くされていて、ハイウェイに車がたくさん走っていて、ネオン街で雨が降っていたりしますよね。その辺りの描写は『ブレードランナー』に通じるところがありますが、さらに『攻殻機動隊』にはデジタルというレイヤーがあるので、1コマから入ってくる情報がめちゃくちゃ多いんですよね。キャラクターのさりげない目線にも実は意味があったりして、『アップルシード』も同じですが読み返すたびに新しい発見がある。隅々まで細かく作り込まれていて、情報の密度と絵の密度が破綻することなく同時に成立しているわけです。

 

――それって、映像化を担当する側はただただ大変なのではないでしょうか?

 

荒牧 そうですね。時間をかけて原作を読み解いているファンが山ほどいる作品ですが、こっちもそれ以上に読み解いていないと、「あいつ何もわかってないな」という厳しい声が届くことになる。そういう怖さが伴う作品ではありますね。ただ、『アップルシード』の最初の映画が完成して、士郎さんが試写会に来てくれたのですが、上映が終わった後、開口一番に「自分の作品を理解して作っていただいてありがとうございます」と言われました。きっと士郎さんはお世辞が得意な人ではないので、真に受けてしまおうかなと(笑)。凄く嬉しかったことを覚えています。一見、身体が細く見える主人公を筋肉質に描いたり、こだわって作った部分を認めてもらえたのだと思っています。

 

#02 「背景も全部3DCG」がこだわり につづく

 

 

荒牧伸志 SHINJI ARAMAKI

1960年10月2日生まれ。福岡県出身。大学在学中にメカニックデザイナーとして活動を開始する。テレビアニメ『機甲創世記モスピーダ』、『ガサラキ』、『アストロボーイ・鉄腕アトム』などのメカデザインを担当。『APPLESEED』、『EX MACHINA-エクスマキナ-』、『キャプテンハーロック』、『APPLESEED ALPHA』といった映画では監督を務めた。Netflixでは神山健治と共同で監督したアニメ『ULTRAMAN』、『攻殻機動隊 SAC_2045』が配信中。