© 士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊2045製作委員会
© Shirow Masamune, Production I.G/KODANSHA/GITS2045

KODANSHA

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2024.03.20Interview
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interview #04

荒牧伸志が実感した「士郎作品と3DCGの相性」                    ―最新技術が引き出す『攻殻機動隊』の魅力と今後の展望― #03

文・浅原聡 撮影・山谷祐介

「同人誌時代から士郎さんのフォロワーだった」と語る荒牧伸志。2004年に監督を務めた『APPLESEED』は、モーションキャプチャーを導入した世界初の3Dライブアニメとして注目を集めた。メカニックデザインのセンスや知識、そして最新の技術を用いることで原作の魅力を引き出す手腕は、神山健治とダブル監督を務めた『攻殻機動隊 SAC_2045』でも発揮されている。どちらも荒牧が自分から行動を起こすほど「やりたかった作品」だが、そこまで情熱を注ぎたくなる士郎正宗作品の魅力とは? 原作への思い入れや制作現場での悲喜こもごもはもちろん、続編の可能性や今後の展望も語ってもらった。

#03 話題のツールが誘う「原作漫画2の世界」

――『攻殻機動隊 SAC_2045』を経て、3DCGのアニメにどんな課題感や可能性を感じていますか?

 

荒牧伸志(以下:荒牧) 3DCGの課題は、 結局のところ人間が描く線の魅力に勝てないところですね。その“味”をうまくデータに取り込んで融合させることが次のステップだと思います。すでに手描きのアニメに3DCGを効果的に取り込むアニメーターが出てきていて、日本でも個人単位で始めている人が増えているんですよ。海外だと『スパイダーマン:スパイダーバース』のように手描きとCGの境目がわからないような作品もありますし、この流れは世界的に広がっていくのではないかと。個人的にはNetflixのアニメシリーズ『アーケイン』にも刺激を受けました。CGアニメではあるんですが、光、煙、炎などが、手描きのような表現になっているんです。「どうやってるの?」と、その仕組みが気になるんだけど、そんなこと忘れてしまうぐらいおもしろい作品です。それが理想ですよね。物語やキャラクターの魅力と技術の努力をすべて融合させていく。『攻殻機動隊 SAC_2045』も自分たちが試したことに対する手応えが得られましたし、ブラッシュアップさせるための課題も見えました。

 

――ピクサー映画などは手描きの味よりもCGらしい表現を磨くことを重視しているように見えますが、あそこまで振り切った作品は日本からはほぼ生まれていないと思います。それは単純に志向性が違うからでしょうか?

 

荒牧 最近は海外からアニメ制作のオファーが増えているのですが、極端なくらい「手描きのアニメにしてくれ」というオーダーが多いんですよ。僕の性格がひねくれているのかもしれないけど、そのオーダーの奥底には「日本人がCGをがんばってもピクサーには勝てないでしょ」というメッセージが込められている気がして(笑)。そこに反発したい気持ちもあるのですが、とはいえ日本人の一流アニメーターが描く線は本当に美しい。描いている瞬間も映像に残さなきゃダメだと思うぐらいです。黄瀬和哉さんの絵も凄いですよ。『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』や『イノセンス』で作画監督を担当して、『攻殻機動隊ARISE』では総監督も務めていますが、今見ても絵に古臭さを感じないですからね。CGは技術が進化していくので、以前の作品はどうしても古く見えてしまうのですが、やっぱり線の魅力って何年経っても減らない。そこに関しては、超えようとか勝ちたいとか思っていません。

 

――ちなみに『攻殻機動隊 SAC_2045』の制作過程で士郎正宗さんと会ってコミュニケーションすることはあったのでしょうか?

 

荒牧 『攻殻機動隊 SAC_2045』では会っていないんですよ。『APPLESEED』は3本作らせてもらって、その都度会ってコンセプトの相談などをさせてもらっていました。士郎さんには僕よりも遥かに深い世界が見えているので、だいたい会話が禅問答みたいになってしまうんですよ(笑)。ひとつひとつの言葉に対して、「それはどういう意味ですか?」と聞きたくなってしまう。だからおもしろいんですけどね。

 

――なかなか表に出ることがない士郎さんの人柄がわかるような貴重なエピソードですね。

 

荒牧 実は士郎さんって、テキストメッセージのやり取りもフィジカルなんですよ。文面が紙にプリントアウトされて、郵便やファックスで送られてくるんですよね。誰よりもネットの怖さを知っている人だからか、仕事環境はできる限りデジタル化していないようです。ちょっと変わった人ですよね。

 

――このインタビューを読んでから『攻殻機動隊 SAC_2045』をチェックする人もいると思いますが、観た後にどんな余韻が残ったら嬉しいですか?

 

荒牧 今回、最初から心がけていたのは、現在の社会で起きている問題とリンクするテーマを物語に盛り込むことです。そのテーマの答えまでは見せられていないかもしれませんし、陳腐な言葉になってしまうかもしれませんが、観た後に、未来に希望や可能性を感じてもらいたいと思いながら作りました。

 

――今後、技術が進化して社会も変わっていけば、公安9課にやれることもどんどん広がっていく気がします。次回作の構想はあるのでしょうか?

 

荒牧 もともと公安9課はデジタル社会のエキスパート集団だったと思いますが、今や誰もがネットで高度な技術を使えるようになっていますよね。いわば技術のインフレが起きてしまっているので、さらにすごいことを公安9課にやってもらおうとすると、もう魔法の世界になっちゃうんですよね。そこに説得力を持たせるのは簡単ではないので、無邪気に次回作の構想を語ることはできないのですが(笑)。また作るのであれば、次回はメディアを変える必要があると思っています。他の作品では挑戦した人がいますが、たとえばVRとかね。

 

――好奇心を刺激されるメディアやツールはありますか?

 

荒牧 気になっているのはApple Vision Proです。かなり優れた器械だと思いますよ。まだ具体的なビジョンがあるわけではないですが、あれを使った『攻殻機動隊』が作れたらおもしろいなと、漠然とした期待感を抱いています。僕は普段から仕事場で作業する際は3画面か4画面は同時に出したいんですよ。その環境を出先で作れないことが悩みだったのですが、Apple Vision Proを装着すれば目の前に何画面でも置けちゃうわけですよね。マウスもポインティングを目でやるらしいし。 Appleは「空間コンピューティングの時代」と謳っているようですが、これまでアニメの『攻殻機動隊』で描いてきた世界を超える表現ができそうですよね。

 

――iPhoneの登場と同じような革新が起きそうですね。

 

荒牧 そうですね。これまで僕らが作ってきた『攻殻機動隊』が原作漫画の1の世界だとすると、Apple Vision Proによって2の世界に到達できそうな気がしています。2は電脳空間の内側を描いているわけで、これまでは理解するのがなかなか難しかったじゃないですか。でもApple Vision Proを使いこなせるようになったら、みんなが電脳空間の中を自分の目で見られるようになるのではないかと。つまり、ようやく時代が士郎さんに追いついてきたのかもしれません。一歩だけ、ですけどね(笑)

 

――原作漫画にはまだまだ味わい尽くされていない魅力がありそうですね。

 

荒牧 原作の1だって、まだまだ僕らが咀嚼できない概念や掘り起こせていない魅力があるはずです。だから初心者ファンの方々には、原作の1を100回 読んでほしいですね(笑)。そこにすべての答えがあります。でも、たまには味変もしたいと思いますし、原作の世界観を理解する入門編として『攻殻機動隊 SAC_2045』を見てもらうのもオススメです。そういう立ち位置になれたとしたら、それだけでも僕は大変光栄でございます。

 

 

荒牧伸志 SHINJI ARAMAKI

1960年10月2日生まれ。福岡県出身。大学在学中にメカニックデザイナーとして活動を開始する。テレビアニメ『機甲創世記モスピーダ』、『ガサラキ』、『アストロボーイ・鉄腕アトム』などのメカデザインを担当。『APPLESEED』、『EX MACHINA-エクスマキナ-』、『キャプテンハーロック』、『APPLESEED ALPHA』といった映画では監督を務めた。Netflixでは神山健治と共同で監督したアニメ『ULTRAMAN』、『攻殻機動隊 SAC_2045』が配信中。