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KODANSHA
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2024.04.17Interview
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interview #06

声優・坂本真綾が明かす”新たな素子像”への思い                 ―プレッシャー、そして“2つの世界”の橋渡し― #01

文・音部美穂 撮影・三宅祐介

2013年から2014年にかけて公開された映画『攻殻機動隊ARISE』。公安9課結成に至る軌跡を描いた本作では、主人公・草薙素子をはじめ、9課のメンバーの声優陣が一新されたことも話題を呼んだ。同作およびその次作となった劇場用アニメ映画『攻殻機動隊 新劇場版』で素子の声を演じたのは、坂本真綾。すでに「素子=田中敦子」がファンの間で定着していたなかで、坂本はどのようにして素子像を作り上げていったのだろうか。オーディションの様子から新たな素子像への思い、10年の時を経て芽生えた思いまでを明かす。

#01 作品名が伏せられていたオーディション

――坂本さんと『攻殻機動隊』の最初の接点は、いつごろだったのでしょうか?

 

坂本真綾(以下:坂本) 15歳のときです。『ARISE』で本格的に素子を演じるずっと前に、『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』でわずかなシーンではありますが、素子を演じたことがあるんです。田中敦子さん演じる素子が少女の義体に一時的に入った際に、精神的には大人のままだけれど声は少女になるという設定で、それが『攻殻機動隊』との出会いでした。
正直なところ、当時の私にはストーリーを理解するのも難しくて。インターネットがまだ身近な時代ではなかったので、「ハッキング」という言葉を聞いても、それがどのような状態になるのか、はっきりとイメージできず、「とても遠い未来のSF物語」として受け止めていました。だからこそ、作品で描かれていることが、あっという間に現実のものとなったのは驚きでしたね。

 

――子役として活躍し、豊富なキャリアがあった坂本さんでも、15歳で素子を演じるのは、なかなかハードルが高かったのではないでしょうか?

 

坂本 そうなんです。実は、このころは、まだアニメのアフレコにも慣れていない状態で‥‥。敦子さんとは小学生のころから他のお仕事で共演経験があったので、敦子さんの声についてのイメージはありましたが、やはり素子は独特の雰囲気をまとったキャラクターなので、無我夢中でセリフを言う、という感じでした。そのセリフもひと言ふた言でしたし、声優として出演したというより、運良く作品に紛れ込ませていただいたような感じだったのかもしれません(笑)

 

――『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』の出演時、押井守監督とは、現場でどのような話をしましたか?

 

坂本 それが押井さんとはあまり話をした記憶がないんですよ。でも、2022年に別の作品でご一緒する機会があった際に「オレのこと、覚えてる?」って話しかけてくださって。そのときに、押井さんは「まだ中学生の女の子に何と話しかけていいのかわからなかった」とおっしゃっていました(笑) 『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』以来、押井さんとご一緒する機会がなかったので、忘れ去られているのかなと思っていたんですが、折に触れて私の活動を見守ってくださっていたことを知り、あらためて『攻殻機動隊』に関われて本当に幸せだったなとしみじみ感じましたね。

 

――『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』への出演後も、『攻殻機動隊』シリーズはチェックしていたのでしょうか?

 

坂本 はい、大ファンになりました。『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』で音楽を担当されていた菅野よう子さんとは長いお付き合いです。そのご縁もあって、菅野さんが『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』の音楽をレコーディングしているときにスタジオに居合わせたことがあり、「カッコイイ音楽だなぁ」って心を奪われて。それがきっかけで作品を見るようになり、気がつけば、夢中になっていました。

 

――『攻殻機動隊』のどのようなところに魅力を感じていたのでしょうか?

 

坂本 世界観、音楽、ストーリー‥‥もう、すべてですね。SF作品であるにもかかわらず、人間ドラマが丁寧に、生々しく描かれているので、ドラマとして魅力的で、どのキャラクターのことも好きになってしまうんです。キャラクターの個性が際立っているのは、“声の力”も関係していると思います。『攻殻機動隊ARISE』に出演する前から、「声優さんのお芝居がこの世界観を構築する大きな要素になっている」と感じながら見ていましたし、声優さんたち自身がこの作品が大好きなんだろうなというのは、こちらにも伝わってきていました。

 

――では、坂本さんご自身が素子を演じた『攻殻機動隊ARISE』のオーディションには、かなり気合を入れてのぞんだのでしょうか?

 

坂本 それが、オーディションでは作品名が伏せられていたんですよ。多くのファンを持つ作品だけに、声優を一新することが意図しない形で世に知られたら、大騒ぎになるかもしれない。だからプロジェクトも極秘で進められていたんだと思います。そのため、オーディションで与えられたセリフは、作品中に実際に登場するセリフではありましたが、役名も別の名前に書き換えられていました。セリフの雰囲気から、「刑事モノかな?」となんとなく感じてはいましたが、まさか『攻殻機動隊』のオーディションだったとは夢にも思っていなくて。

 

――合格して作品名を知らされたときは、どんな気持ちでしたか?

 

坂本 嬉しいというより、ギョッとしました(笑) これだけ多くのファンがいる作品ですから、「私があの素子を演じられるのだろうか‥‥」と不安で仕方なかった。そういった意味では、作品名を知らずにオーディションにのぞめたのは幸いだったのかもしれません。それまでの『攻殻機動隊』シリーズのイメージがとても強いので、作品名を知っていたら、似せようとしたり、逆に「自分の色を出そう」と意識しすぎて、どうしても不自然になってしまう。だから、普段どおりの気持ちでのぞめたのは良かったと思います。
ちなみに、オーディションの1次審査はテープ審査で、セリフを録音した音源を送るというスタイルでした。私は自宅で録音したんですが、カラスの鳴き声が入ってしまったんですよ。今思えば、よくあれで審査を通ったなぁと。生活感があるのがかえって良かったんですかね(笑)

 

――10代の頃にも出演していた『攻殻機動隊』シリーズに再び出るのは、どのようなお気持ちでしたか?

 

坂本 もしかしたら、『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』での出演経験が『攻殻機動隊ARISE』でのご縁につながったのかと思い、合格後に聞いてみたら、まったく関係なかったそうです。『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』での出番は決して多くなかったですし、私が出演していたことを覚えていなかったスタッフさんも多かったと思います。実際、黄瀬さん(『攻殻機動隊ARISE』の黄瀬和哉総監督)も把握していなかったそうなんですよ。子どもだった私が年月を経て大人になったからこそ、このような機会に巡り合えたのは素直に嬉しかったですね。

 

#02 不安を吹き飛ばした黄瀬監督の言葉 につづく

 

 

坂本真綾 MAAYA SAKAMOTO

声優、俳優、歌手。東京都出身。小学生時代より子役として活動し、1996年にCDデビューを果たす。声優業では、『攻殻機動隊 ARISE』『攻殻機動隊 新劇場版』の他、『天空のエスカフローネ』『桜蘭高校ホスト部』『火狩りの王』など出演作多数。舞台俳優としても活躍し、2012年には菊田一夫演劇賞を受賞。