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KODANSHA
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2024.04.17Interview
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interview #06

声優・坂本真綾が明かす”新たな素子像”への思い                 ―プレッシャー、そして“2つの世界”の橋渡し― #03

文・音部美穂 撮影・三宅祐介

2013年から2014年にかけて公開された映画『攻殻機動隊ARISE』。公安9課結成に至る軌跡を描いた本作では、主人公・草薙素子をはじめ、9課のメンバーの声優陣が一新されたことも話題を呼んだ。同作およびその次作となった劇場用アニメ映画『攻殻機動隊 新劇場版』で素子の声を演じたのは、坂本真綾。すでに「素子=田中敦子」がファンの間で定着していたなかで、坂本はどのようにして素子像を作り上げていったのだろうか。オーディションの様子から新たな素子像への思い、10年の時を経て芽生えた思いまでを明かす。

#03 あらためて感じた敦子さんの偉大さ

――素子という人物の魅力は、どのようなところにあると感じていますか?

 

坂本真綾(以下:坂本) 素子って、相反するものを持ち合わせている人物だと思うんですよ。何を考えているのか、本心は誰にもわからないし、あんなに強くてみんなに頼りにされる存在なのに、どこか守ってあげたくなる部分もある。周囲に支えてくれる人はたくさんいるのだから、「もっと甘えればいいのに」って言いたくなっちゃうこともあるんですが(笑)、周囲の人物との距離感もまた、この作品の魅力のひとつでもあると思うんです。たとえば、バトーは長い間ずっと一緒にいて素子の心のわずかな揺れも見てきたわけですよね。だからこそ、そばにいても踏み込みすぎず、絶妙な距離感で支えていて、その関係性も素敵だなと思っています。

 

――同じ女性として、素子の生き方はどのように感じていますか?

 

坂本 同じ女性ではあるかもしれませんが、素子の場合は、もう性別を超越した存在ですよね。素子は、「永遠の若さを持つ」という点においては、人間の憧れを体現している人物なのだと思います。ただ、半永久的な肉体を手にしている――言い換えれば、肉体としてはずっと“仮”のままなのに、心の揺れみたいなものも確かに存在している。その状態のまま生き続けるのは、どこか達観している部分がないと耐えられないんじゃないかなって。ただ、壊れたら直せるという点は、ある意味では羨ましいですね。私も今、肩こりがひどくて悩んでいるので、パーツを変えられるものなら変えたいです(笑)

 

――肉体から精神だけを切り離し、なおかつ成長を続けるというのは、素子だからこそできる生き方ということなんですね。

 

坂本 そう考えれば考えるほど、“普通の人間”である私には、素子をゼロから作り上げるのは難しい。だからこそ、敦子さんの偉大さを感じます。敦子さんが演じる素子は、女性的な色っぽい魅力がありながら、強くて孤高。でも、もしかしたらそれは全部“ポーズ”であって、素子という人間を体現するために素子自身が演じているのかもしれない。そんな気にもさせられるんです。そうやって深読みすればするほど、敦子さんはどのようにして素子を作り上げていったのかが非常に気になりますし、その過程に思いを馳せるたびに、敦子さんの持つ力に敬服するばかりです。雰囲気だけのカッコ良さならば、がんばればできるかもしれないけれど、内面的なカッコ良さをゼロから作り上げるのは、敦子さんでなければできなかった。敦子さんの素子がベースにあったからこそ、私が素子のひとつの時代をやらせてもらうことができたのだと思っています。

 

――坂本さんは、『攻殻機動隊ARISE』をテレビ放送用に再編集した『攻殻機動隊ARISE ALTERNATIVE ARCHITECTURE』のオープニングテーマ「あなたを保つもの」と、『攻殻機動隊 新劇場版』の主題歌「まだうごく」の歌も担当されています。この曲にはどのような思い入れがありますか?

 

坂本 どちらも坂本慎太郎さんが作詞を、コーネリアスさんが作曲・編曲を担当した楽曲なんですが、おふたりの才能が生み出す世界観が本当に素敵で、自分が歌わせてもらえることが光栄でしたね。「あなたを保つもの」では、メロディが先にできあがっていたのですが、慎太郎さんの紡いだ詞は、『攻殻機動隊』の世界を見事に表現していました。体のパーツを歌詞にすることにより、素子の精神と肉体の距離感を表しているような感じがして、聴いただけで『攻殻機動隊』のテーマが伝わってくる哲学的な曲だと思います。
その後、私のライブで歌わせていただくことも何度かあったのですが、ライブだと人間が持つぬくもりのようなものが加わり、まった違った雰囲気になる。そのときどきの私の年齢や経験値によっても雰囲気は変わりますし、歌うたびに新しい発見をさせてくれる曲だと思っています。

 

――『攻殻機動隊ARISE』から10年以上が経ちました。あのときのご自身を振り返ってどのように感じていますか?

 

坂本 ちょっと恥ずかしいのですが、正直に告白すると、当時は、「できることは全部やりきった!」と思っていたんですよ。でも、この10年で、いろいろな役を演じ、また人間としての経験値も増したことで、「今の自分だったら、もっと上手に素子を演じられるかもしれない」と感じることも増えました。一方で、あのときの私だったからこそ、表現できたものもきっとあるんだろうなって。当時の私は、守られるヒロインを演じることが多く、戦う女性を演じた経験がまだ少なかったので、もがきながらやっていた。自分の未熟さを肯定するわけではないのですが、“未熟な素子”を演じるという点では、あのときの私だからこそ表現できた素子がある。それが作品としてこの先もずっと残っていくのは、声優として幸せなことでもあると思うんですよ。

 

 

 

坂本真綾 MAAYA SAKAMOTO

声優、俳優、歌手。東京都出身。小学生時代より子役として活動し、1996年にCDデビューを果たす。声優業では、『攻殻機動隊 ARISE』『攻殻機動隊 新劇場版』の他、『天空のエスカフローネ』『桜蘭高校ホスト部』『火狩りの王』など出演作多数。舞台俳優としても活躍し、2012年には菊田一夫演劇賞を受賞。