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2025.07.25Interview
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interview #10

電脳社会を音楽で表現した小山田圭吾の3年間                   ー『攻殻機動隊』とCorneliusの相互作用ー #02

文・浅原聡

士郎正宗の原作漫画をベースに、映像化シリーズ第3弾として始動した『攻殻機動隊ARISE』。公安9課メンバーのキャラクターデザインが変更されるなど、大胆な試みで『攻殻機動隊』の新しい魅力を掘り起こした作品に、音楽で彩りを添えたのがCorneliusこと小山田圭吾だ。主題歌やエンディング曲だけでなく、約3年間にわたって劇中のさまざまなシーンで使われる曲を書き下ろしで提供。
聴き手の想像力を刺激する音はいかにして作られたのか。“アニソン”を巡る記憶と自身のこだわりについて、小山田圭吾に話を聞いた。

#02 2014年、METAFIVE本格始動の裏側

——『攻殻機動隊ARISE』は全4部で劇場公開され、その後テレビ版も制作されるなど長期的に展開されたシリーズです。劇中で使われるたくさんの音楽は、どんな形でオーダーを受けていたんですか?

 

小山田圭吾(以下:小山田) シンプルな絵コンテを添えたオーダーメイドが届いた状態で構想を練り始めて、追加でラフなビデオコンテが送られてくるので、それを見ながら尺を合わせたり、音のトーンを調整します。そこから、もう一段階仕上がった映像が届くので、また調整する。その繰り返しでしたね。

 

——曲が使われるシーンのセリフや効果音のことも意識しながら作るのでしょうか?

 

小山田 そうですね。映画やアニメーションにおいて音楽は一つの要素に過ぎないので、基本的には絵やセリフや効果音とのパーツと調和させることを目指していました。とはいえ、全部の曲が採用になるわけじゃないし、ラッシュ(試写)までは実際に乗っかってくる効果音やセリフの温度感は分からないので、アニメの音楽は最終的に音響監督の判断に任せるしかなくて。僕としては「上手くハマるといいな」と願うしかなかった感じです。

 

——例えば「この場面はギターを使ってほしい」というように、アニメ側から音に関する具体的なリクエストが届くこともあったのでしょうか?

 

小山田 少しはありましたが、そこまで細かいリクエストはなかったかな。だから、とりえず僕が作った曲を全部渡して「あとは自由にハメてください」と。僕はCMやテレビ番組などの映像に音楽をつける仕事は経験したことがありましたが、『攻殻機動隊 ARISE』のような大きなアニメプロジェクトに参加するのは初めてだったので、制作過程で関わっている人の数が多いことに驚きましたね。音楽の使い方に関して僕が口出しするのはおこがましい気がしたし、全体を把握されている方に適材適所でハメてもらえればOKだと思っていました。実際、最初のオーダーとは違うシーンで使われていることもありましたが、違和感なく成立していてよかったですね。

 

——Corneliusの音楽を作ることとアニメのサントラ制作は勝手が違う部分が多かったと思います。それをストレスに感じることはなかったですか?

 

小山田 音楽の作り方はほぼ一緒なのですが、サントラは『攻殻機動隊 ARISE』の世界観が軸にあり、各シーンのテーマに沿って作っていく必要があることが普段との一番の違いですね。それが僕にとっては新鮮で、自分がこれまで開けてこなかった引き出しを開けられるんですよ。自分のアルバムの場合は自分で演奏したり自分で歌ったりしなきゃいけなかったりしますが、このプロジェクトに関しては狭い制約を解除して、自由になれた感じがしました。

 

——『攻殻機動隊 ARISE』はborder:1からborder:4まで異なるエンディング曲が使われており、それぞれ歌い手も違います。コラボレーションする相手はどんな背景で決まったのでしょうか?

 

小山田 オファーを引き受けてくれそうな身近な人を選んだのが正直なところです(笑)。でも、それぞれ違ってストーリーがありまして。まずsalyu(border:1の『じぶんがいない』を歌唱)は、たまたまsalyu×salyuというプロジェクトを一緒にやっていた時期で、僕が仕事の近況を語っていたら、彼女が攻殻機動隊のファンだったことが判明したんですよ。「全部見てます!」みたいな感じだったし、salyuと会話をしていたらだんだん素子みたいに見えてきて……。

 

——salyuさんはショートヘアの印象が強いですしね(笑)

 

小山田 そうそう。当時は髪が短かったし、彼女の存在感が素子とリンクするような気もしました。そしてsalyu×salyuでは声をチョップしてみたり、多重的に使うような試みをしていたので、それも擬態を表現するのに合っていると思って。それからborder:2の『外は戦場だよ』は(青葉)市子ちゃんに歌ってもらったのですが、当時は彼女ともよく会っていたんですよ。市子ちゃんとU-zhaanと僕のトリオ編成で音楽イベントに出演する機会があったので。それで彼女の歌を間近で聞いていたら、border:2のダークな世界観にマッチするような予感がしてオファーしたことを覚えています。

 

——border:3『Heart Grenade』のショーン・レノンさん、border:4『Split Spirit』の高橋幸宏さんとMETAFIVEのエピソードも聞かせてください。

 

小山田 その頃、僕はオノ・ヨーコさんのお手伝いをする機会があって、ショーンと一緒に過ごすことが多かったんです。salyuの時と同じで会話をしていたら、彼も『攻殻機動隊』の大ファンであることが分かって。「全部見てます!」って、リアクションも同じだった(笑)。そんな感じで、僕が『攻殻機動隊 ARISE』に関わることが決まったタイミングで、たまたま身近に作品のファンが多かったので、歌い手の人選はあまり迷うことなく決まってきました。
METAFIVEは高橋幸宏さんの呼びかけで集まったメンバーで、イベントに出演するために一夜限りで結成されたバンドだったんです。でも実際にライブをやってみたら、想像以上に手応えがあって、自然と『攻殻機動隊』のプロジェクトでも一緒にやりたいと思うようになりました。

 

——『攻殻機動隊』とYMOは明らかに親和性がある組み合わせですよね。

 

小山田 そもそも80年代に流行ったサイバーパンクって、ウィリアム・ギブスンの『ニューロマンサー』というSF小説が源流にあって、その『ニューロマンサー』という題名は、幸宏さんが1981年に出した『NEUROMANTIC』というアルバムにインスパイアされたと言われてますよね。日本語に邦訳された小説の装丁もYMOのジャケットを手掛けていた奥村靫正さんが担当していますし、憧れの幸宏さんに登場していただく口実には困らなかったわけです(笑)。そのオファーを快諾していただいたことで、METAFIVEにとって初のオリジナル曲である『Split Spirit』が完成しました。2014年に日本科学未来館で『攻殻機動隊』の生誕25周年を祝うイベントが開催されて、そこに新人バンドとして高橋幸宏 & METAFIVEも出ているんですよ。『攻殻機動隊』がなければバンドが実態化することがなかったかもしれないし、きっかけを与えてもらったことに感謝しています。

 

——ちなみに『じぶんがいない』や『外は戦場だよ』など多くの楽曲を坂本慎太郎さんが作詞されていますが、どんな流れで共作していたんですか?

 

小山田 坂本君とはsalyu×salyuで歌詞を書いてもらったのが初めてだったのですが、その時にすごくいいものができたので、一緒にどんどん曲を作りたいと思っていたんです。僕が作った音を渡して坂本君に歌詞を書いてもらう流れが多かったかな。毎回、めちゃくちゃ仕上がりが早かったんですよ。『じぶんがいない』は言葉が入り組んでいる構造にしたかったので、歌詞を書くのが難しかったと言っていましたけど。発音として耳が気持ちよくて、文章としても面白い言葉を見つけてくるのが坂本君のすごいところ。2015年に『攻殻機動隊 新劇場版』の主題歌として作った『まだうごく』は歌詞の仕上がりがめちゃくちゃ早くて、真綾さんも歌入れでミスをしない人なので、その日の仕事が異常に早く終わって夕方ぐらいには飲みに行きました(笑)

 

#03 作曲家にも癒やしを与えたロジコマ につづく

 

 

小山田圭吾 KEIGO OYAMADA

1969年1月27日生まれ。東京都出身。1991年のFlipper’s Guitar解散後、1993年からCornelius(コーネリアス)名義で音楽活動を開始。アルバム『THE FIRST QUESTION AWARD』や『69/96』が大ヒットを記録し、当時の渋谷系ムーブメントを牽引する存在に。2006年、映像集「Sensurround + B-sides」が、アメリカ「第51回グラミー賞」最優秀サラウンド・サウンド・アルバム賞にノミネートされた。現在、国内外多数のアーティストとのコラボレーションやリミックス、プロデュースなど幅広いフィールドで活動中。