© 士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊2045製作委員会
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KODANSHA
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2024.06.28Other
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report #01

トークショーでは押井守節も炸裂! 『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』にフィーチャーする音楽イベントに潜入!!

文・浅原聡 撮影・山谷祐介

『攻殻機動隊』の原典である士郎正宗の漫画連載がスタートして35周年の節目を記念して、2024年5月25日(土)に音楽をテーマにしたイベントが開催された。
原作漫画の世界観を映像や音楽と融合させる試みは、押井守が手がけた『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』から始まった。SFアニメ映画の金字塔として今も世界中で新たなファンを生み出し続ける名作を題材として、今回は新進気鋭のアーティストやレジェンドDJが集結。VJ映像を駆使したライブやDJ、VRコンテンツ体験、巨匠たちによるトークショーなど、『攻殻機動隊』らしく怒濤の情報量が詰め込まれた1日の様子をレポートする。

 

「DEEP DIVE in sync with GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」と名づけられたイベントに相応しく、会場に選ばれたのはZepp Shinjuku。アーティストが待つフロアに向かうためには、日本一カオスな繁華街である新宿歌舞伎町の雑踏をかき分けて地下4階まで潜り込まなければならない。

 

エントランス前のレーンには、13時の開場を待ちきれないファンが行列を作っていた。草薙素子のコスプレで参戦するアニメファンの“ガチ勢”はもちろん、音楽愛が漂うグラフィックTシャツを着ているカップルもいる。さまざまなカルチャーにコネクトしてきた『攻殻機動隊』らしく、ファン層も多様だ。

 

ライブ開幕の火蓋を切ったのは、新世代アーティストの4s4ki(アサキ)。1曲目に披露した『電脳郷』から、持ち味である機械的なエフェクトがかかったような歌声で観客を一気に現実から電脳世界へと誘う。2曲目の『LOG OUT』も、理不尽な現実世界からのログアウトを表明するような力強い楽曲で、事前の宣言通り『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』を意識したセットリスト。電脳空間を表現した映像をバックに圧巻のパフォーマンスを繰り広げた。

 

興奮さめやらぬなか、続いて登場したのはディオユニットのどんぐりず。世界各国で中毒者が続出した近年の代表曲『NO WAY』を筆頭に、ウィットにあふれるダンサブルなサウンドで観客を魅了。草薙素子が水辺でテロリストと戦闘する場面など、ステージのスクリーンには『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』を象徴するシーンを切り取ったVJ映像が流れ、視覚的にも作品世界に没入できる演出が盛り込まれていた。

 

3組目に登場したMaika Loubté(マイカ・ルブテ)は、エレクトロニック・ミュージックと透き通った歌声を溶け合わせる名手。最初に披露した『It’s So Natural』は、疾走感溢れる曲調ながら「暗闇にいることは、なんて自然なのだろう」という哲学的なメッセージを投げかける楽曲だ。クールで達観しているように見えて、燃え上がるような熱量も感じさせる。艶やかな衣装も相まって、ステージで歌う彼女は“少佐”を彷彿とさせる存在感を放っていた。

 

どこか夢見心地だった観客の目の前に、yahyelの4人が登場。1曲目の『Mine』から池貝峻がソウルフルなファルセットボイスを響かせ、開場の空気を一瞬にして掌握する。背後のスクリーンに図形や英字の映像が映し出されるなかで、『Sheep』、『ID』、『LOVE』などの楽曲を立て続けに披露した。

 

新進気鋭のアーティストによる怒濤のライブが一段落すると、幕間の時間はサブフロアに設置されたVR空間の体験スペースに行列ができた。コンテンツはMONDO GROSSO『FORGOTTEN』など数々のVR作品のディレクターを務めてきた0b4k3(オバケ)と、立体音響のサウンドプロデュースを数多く手掛ける山麓丸スタジオによるコラボレーション作品。クオリティの高さに圧倒されたリピーターが続出し、3時間待ちのアナウンスがされる時間帯もあった。

 

また、物販スペースではイベントオリジナルのアパレル商品を販売。ストリートアパレルブランド「MEQRI」とのコラボレーションで、草薙素子の名場面をデザインしたTシャツや、イベントロゴをあしらったアイテムなど、数々のオリジナルアイテムが展開された。

 

17時からは、『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』の監督を務めた押井守と劇中の音楽を手がけた川井憲次によるスペシャルトークショーが始まった。DOMMUNEの宇川直宏がMCを担当し、まずは同作が公開された1995年の思い出を振り返ることに。

 

押井「あの頃はバーチャファイターにハマっていたね。モニターに自分の分身を投影して戦わせる感覚は、アニメ監督やアニメーターにとっては夢のような感覚。技のコンボが狙い通りに決まったとき快楽は格別だったね」

 

宇川「当時はゲーセンだけじゃなくてクラブにもバーチャファイターの筐体が置いてありました。当時の格闘ゲームには、クラブミュージックで得られる身体的な快楽と似ている部分があったのかもしれませんね」

 

当時から先鋭的な映像と音楽を掛け合わせたイベントが盛んに行われていたが、「両者を融合させるのは難しいと思っていた」と押井は語る。そして、それを実現できる希有な存在として川井憲次の名前を挙げた。

 

川井「『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』の音楽は、最初に押井さんから太鼓の音でいきたいというリクエストだけもらいました。西洋音楽から離れるために、鍵盤や弦の音から離れたいという意思も聞いていましたね。そこから池袋の楽器屋でインドの打楽器を買って、その音に合わせて民謡の歌手にコーラスをお願いすることになったんです」

 

押井「ビブラートが効いて絶えず変調する民謡の発声法は、とても怪しげだけど聞き入ってしまう不思議な魅力がある。公開当初、この作品はオタク向けの難解な作品だと思われていたし、物語の本質が伝わるまでに随分と時間がかかったけど、それでも文化が違う海外の人にまで受け入れられたのは、それこそ映像や音楽に身体的な快楽が潜んでいたからだと思うな」

 

宇川「『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』のセルビデオが発売された’97年、僕は西海岸に住んでいたのですが、現地でもチャート上位に食い込むくらい売れていたんですよ。今は劇中で描かれたようなテクノロジーがどんどん身近になっていますが、おふたりは今後も『攻殻機動隊』の映像や音楽を手がけてみたいと思いますか?」

 

押井「一発目の映画は、予算がめちゃくちゃ少なかったんだよ。当時と同じような条件が提示されたら無理だね。もう徹夜できないもん(笑)」

 

川井「……(ウンウンと頷く)」

 

約50分のトークショーが終わった後は、レジェンドDJによるブチ上げタイムがスタート。最初に登場した電気グルーヴの石野卓球は、ファンの期待に応えるように自身が手がけたPlayStationゲームソフト『攻殻機動隊 GHOST IN THE SHELL』(’97年発売)のサントラから圧倒的な音圧で回し始める。直前のトークショーで宇川直宏が名盤の再販をアナウンスしており、さらに後方のスクリーンで『攻殻機動隊』の新作TVアニメシリーズの制作がサプライズ発表されたことも重なって、開場は誰もが身体を揺らすお祭りモードに。

 

そして、満を持して登場したヘッドライナーはDerrick May(デリック・メイ)。前述のサントラに参加したアーティストの1人であり、デトロイト・テクノを世界に広めた伝説的なDJだ。長時間にわたり踊り続けたファンの疲れを癒すような心地良いサウンドから始まり、中盤はLos Hermanos(ロス・ヘルマノス)などデトロイト・テクノを代表するアーティストの名盤を次々とプレイ。電子機材を味方にするテクノと『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』の世界観があまりにもマッチすることを証明してみせた。

 

音楽と映像のシャワーを浴び続け、精神世界の海にダイブさせられたような約7時間のイベントが終了。新作アニメをはじめ、今後も『攻殻機動隊』の歴史はクリエイターやアーティストによって紡がれていくのは間違いない。そんな未来を想像したら、帰り道も多幸感が消えなかった。