2023年11月25日(土)実施『攻殻機動隊 SAC_2045 最後の人間』極上音響上映スタッフトーク公式レポート
劇場公開がスタートした『攻殻機動隊 SAC_2045 最後の人間』。公開3日目となる11月25日(土)に立川シネマシティにて極上音響上映スタッフトークが実施され、演出と編集を手掛けた古川達馬と、「SAC_2045」シリーズを通してサウンドデザイナーを担当した高木創が登壇し、高木が直接音響を監修した極上音響による上映を体験したばかりの熱いファンの前で制作にまつわる裏話が披露されました。
『攻殻機動隊 SAC_2045 最後の人間』 極上音響上映スタッフトーク 概要
■日時:11月25日(土)14:15~15:15 ※上映後イベント
■登壇者(敬称略):古川達馬(演出&編集)、高木創(サウンドデザイナー)
■場所:立川シネマシティ シネマ・ワン(東京都立川市曙町2丁目8−5)
映画に愛のある劇場・立川シネマシティで映画を愛する観客たちが集まって開催された『攻殻機動隊 SAC_2045 最後の人間』スタッフトークイベントに、演出と編集を手掛けた古川達馬と、「SAC_2045」シリーズを通してサウンドデザイナーを担当した高木創が登場。高木は劇場に集まった観客たちを前に「こんなにたくさん来ていただいてうれしい」と笑顔を見せ、一方で今回上映後の開催ということもあり、古川は「普段語れない、突っ込んだ話もできればと思います」と語り、早くも観客たちから興味深々の目を向けられていた。
今回、高木が直接劇場に出向いて音響を調整した“極音上映”が実施されており、特にOP、EDの響く感じ、音質感、低域感をオリジナルの音源を知り尽くしている高木が調整しているということで「ここよりいいところはないくらいレベルが高い」と自負。実際にどのような調整をしたのかを聞かれると、高木は「そもそも映画の音響というのは国際基準があるんですが、実際は映画館のシアターの大きさや形で微妙に違って聞こえてきます。今回は直接劇場のスピーカーで聞きながら調整していて、何かを深く求めるというよりは、なるべく思い描いている音をお客さんに届けるための調整という感じです」と貴重な音響で体験できることを明かしつつ、「だから、これから劇場で見た時に、もし物足りないと思ったら劇場に 『攻殻のスペックはこんなもんじゃない』とフィードバックしてください」というまさかのリクエストも飛び出し、観客からは驚きの声も上がっていた。
前作「持続可能戦争」では編集のみを担当していたものの、本作では編集に加えて演出も担当し「前作よりもより深く関わった」と語る古川は、公開を迎えたことについて「終わっちゃったなあ、という気持ちです」と正直な気持ちを吐露。元々「攻殻」シリーズのファンで、前作の時は「有頂天だった」という古川だが、「今回は完結までやってしまえて…振り返ると幸せな時間でした」としみじみ。
一方で、普段は藤井監督とともに実写作品を手掛けていることもあり実写とアニメでの編集の違いを聞かれるとそこまで違いはなかったとか明かす。「今回は3DCG作品だったこともあり、1本の映画として自分が面白い、心が動くものを組み立てるという実写と同じ気持ちで挑みました」と語った。
同様に、実写作品とアニメ作品の音響の違いを聞かれた高木も古川の言葉に頷いていたが、明確な違いとして「シリーズとして作られていたものを編集する作業になるので、もとからある映像をカットして編集点を作っていくんですがそのポイントが前作より増えて…前作と同じ感じだと思ってやりだしたら、コマ抜きをしたり、モーションを遅くしたり等が積み重なって、結局1000カット以上になってしまいました」と想像以上の苦労を明かすと、古川は「普通は、編集をやり終わってピクチャーロックをかけたらそこから映像は変えないんですが、今回は『すみません、やらせてください』といってダビングステージでも変更させていただきました」と申し訳なさそうに苦笑いを浮かべていた。
そんな苦労を経て完成した本作についての反省点を聞かれると高木は「言い出したらきりがない。お酒とつまみをもって、2時間くらい語れそう」と笑いを誘いながらも「シリーズのほうでは30秒くらいあった銃撃戦を劇場版では10秒くらいに短く変更している部分があって、完成したものを聞くと同じ音をリピートしているように聞こえる部分があるんです。もっとバリエーションつければよかったな、って…」と反省するも、一方で古川は「特にないです」とキッパリ。「前回の時もなかったんですけど、今回は試写の時に、荒牧監督が笑顔で出迎えてくださって、それでよかったなって思いました」というエピソードを明かした。
シリーズと異なる展開を迎え、ほぼ新規で録り直されたというクライマックスシーンについては、既存の音声と新たに録り直した音声のニュアンスを調整する必要があったという。その中でも特に大きな違いは最後のシマムラタカシのニュアンスについてだと高木は明かした。「シリーズの際には、タカシは他のことに電脳のリソースを割いていて、ほとんど自由がない状況で素子と話しているんです。でも劇場版では、タカシが素子のほうにもリソースを割いていて自由に話せる瞬間があって、藤井監督と神山監督とディスカッションして『ナチュラルな声が欲しいね』という話になったんです」。
クライマックスシーンについては、素子がタカシの”コード“を抜いたのか、抜かなかったのか、という解釈をシリーズでは視聴者側に委ねられていたが、劇場版では明確な答えが描かれている。そのことに高木は「制作陣の中でも一致していなかったんです」と明かすと、「劇場版の制作を始めた頃には納得がいかないというか、シリーズの結末に乗り切れない気持ちがあった」という古川も「わかりやすい敗北とか、ディストピアとかではないものを神山監督は見ていたんだな、とディスカッションするうえでわかってきたんです」と明かす。「そのうえで『であれば、こういう終わり方でどうでしょうか』とクライマックスに行きつくまでの過程を付け加えさせていただいた」と語った。
そんな変更を踏まえて高木は「結果的に映画の中で表現されているものが、現実とどうリンクしているかという部分が重要なんです」と語る。「『攻殻』シリーズの最も価値があるところって、現実世界を照らすものとしての物語になっていて、社会に対するアートになっているんです。だけどこれまでと異なるのは、Netflixで配信が始まったときよりも現実が悪化して、本当に地獄みたいなことが世界中で起きてしまい、この作品が配信時よりもファンタジー性を帯びてしまったんです」と想いを込める。
時代の変化を踏まえて新たに作られた『攻殻機動隊 SAC_2045 最後の人間』だが、「最後の人間」というタイトルになったことについて古川は、「最初の意図としては素子のことでしたが、神山監督とディスカッションを重ねる中で『実は逆なんだよねという話』があった」と明かす。
劇場版では1本の映画としていろんな選択肢に対しても希望をもって終わりたい、と神山監督に伝えていたという藤井監督と古川。そこで「じゃあそこにたどり着くために素子とタカシの会話はどうなるんだろうというのを考えていったので、より素子とタカシの想いが飲み込みやすいものになっていると思います。ある種の希望を持ったものが出来上がったと思っています。何度でも足を運んでいただきたい」と自信を見せ、熱いファンからの温かい拍手に囲まれてイベントは和やかに終了した。