© 士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊2045製作委員会
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KODANSHA
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2024.06.15Article
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M.M.A. -Massive Mesh Ambitions- 特集#02/古怒田望人(いりや)「関係性のゴースト──『機械化された欲望』をめぐって」英語版も公開

MMA 古怒田望人 いりや 攻殻機動隊 ghostintheshell

『攻殻機動隊』を思索・議論するメディアプロジェクト「M.M.A. -Massive Mesh Ambitions-」。

 

特集#02のテーマは「アウトロー|Outlaw」。
古怒田望人/いりや「関係性のゴースト──『機械化された欲望』をめぐって」の英語版も公開しました。

 

重要なものは、欲望ではなく欲望の布置であり、脳殻ではなく皮膚の皺であり、性的差異ではなく義体者のよしみである。バトーとタチコマ、パズとかつての恋人、草薙少佐とバトー、三様の関係性分析を通じて、古怒田望人/いりやは「大局的にホモソーシャルな欲望を展開」する《攻殻機動隊》の作品世界にクィアな親密性を読み込んでいく。その際、いみじくも古怒田がオッカムの剃刀として用いたのは「同じさ(sameness)」という概念である。

 

セクシュアリティをこの「同じさ」の視点から捉え返し、非人称的なナルシシズムを生きるものたちが取り結ぶアウトローな親密性を称揚した人物がいる。2022年に帰幽したクィア理論家、レオ・ベルサーニだ。「愛する者の愛する自己は愛される者の自己でもあり、愛される者は愛する者の自己として愛される自己を愛する」と書くように、ベルサーニの思索の前提にはあらゆる既存の秩序への包摂を拒絶し、他者との関係性そのものを否定するような、ラディカルに自閉した個の存在がある。孤絶した個をいたずらに否定するのではなく、自己愛の極限にある「非人称性」をとりだし、その「同じさ」を通じて、私たちが「私たち」となるための可能性を斜めに(slantwise)探るベルサーニの思想は、《攻殻機動隊》の世界の、文字通りに「STAND ALONE COMPLEX」を生きる、異貌のナルキッソスたちが抱える葛藤とも共鳴する。

 

重要なものはだから、「関係性」の「ありえなさ」である。その「ありえなさ」から目を逸らさず、しかし、その可能性を古怒田/いりやのように探りつづけることそこに「ゴースト」が宿る刹那を見逃さないこと。