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2024.06.14Article
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M.M.A. -Massive Mesh Ambitions- 特集#02/松浦優「素肉は肉より出でて、しかし肉には非らず──ヒューマノジェンダリズム批判序説」英語版も公開

MMA Yuu Matsuura 松浦優 攻殻機動隊 ghostintheshell

『攻殻機動隊』を思索・議論するメディアプロジェクト「M.M.A. -Massive Mesh Ambitions-」。

 

特集#02のテーマは「アウトロー|Outlaw」。
松浦優「素肉は肉より出でて、しかし肉には非らず──ヒューマノジェンダリズム批判序説」の英語版も公開しました。

 

台湾には肉を模倣してつくられた「素肉」というものがあるらしい。出自からすれば、素肉を好んで食べる習性も肉食への欲望に根ざしていたことだろう。けれども、素肉料理が発達し素肉愛好家も増えていくとき、はたして、素肉を愛する者の欲望は、肉を愛する者のそれと同じままでいられるのだろうか? 素肉愛好者に特有の欲望は認められないのだろうか?

 

近親相姦以前に同性愛が禁止されている、というジュディス・バトラーによる批判以来、異性愛規範の相対化は、少なくとも理論的には進んできた。しかし松浦優が、二次元キャラクターに向けられた性愛、フィクトセクシュアルを俎上にのぼらせるとき、欲望の多様化が未だ対人性愛の範疇にとどまっていたことを思い知る。すなわち、対人性愛中心主義の世界の中で、私たちの欲望が二次元キャラクターに向かう可能性は予め排除されている。排除に気づくとき、問いが始まる。

 

二次元キャラクターといえど人間をモデルにしている。だからそれを愛する者たちも実生活においては対人性愛規範に基づいた欲望を育むことを期待される。けれども、フィクション上のキャラクターが増殖するに従い、そこに向かう欲望は独自の性質を帯び始める。やがて愛好者たちは排除された欲望の所在に気づく。松浦が焦点を当てるのは、キャラのつくり手ではなく、対人性愛の掟の門の前に立つ受け手の欲望である。人間が非人間的対象を欲望するとはどういうことなのか、それはどのようにして可能となっているのか、その欲望の機序へと筆鋒鋭く迫っていく。義体化・電脳化技術が普及し、人間の人間性がますます希少になっていく《攻殻機動隊》の世界において、人間には向かわない欲望はいっそうアクチュアルな問題として浮上するに違いない。