© 士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊2045製作委員会
© Shirow Masamune, Production I.G/KODANSHA/GITS2045

KODANSHA
2025.03.31M.M.A.
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ISSUE #05

特集_さまよってみる|(try to) Wander

技術と身体のあいだで、意識はさまよう──それは《攻殻機動隊》シリーズにおける重要なモチーフのひとつだろう。この問題を引き継ぎつつ、本特集はグローバルプラットフォームとそれに(疑似)接続される身体を直視しながら、DIY精神を頼りに自身のローカルな身体の輪郭を捉え直そうと試みる。ガイドを務めるのは、海外SFを中心に活動する書評家でありアンソロジストの橋本輝幸と、編集者の堀川夢。

収録している記事は次の5本である。まず橋本による、世界5ヵ国のSF作家たちへのメールインタビュー。参加者は英国スコットランドのチャールズ・ストロス、中国出身の慕明、アフリカからナイジェリア出身のウォレ・タラビとボツワナのトロトロ・ツァマーセ、ブラジルのレナン・ベルナルドである。橋本は5人の声を聴きながら、草の根から生まれる新しいサイバーパンクのありようを探る。次に初邦訳となる米国の作家クリストファー・R・ムスカートによる短編SF。ムスカート自身の言によれば、「ソーラーパンクでありノマドパンク」であるという作品は、自転車による足漕ぎ宇宙旅行が描かれる。続くライターの山﨑燈里によるエッセイは、自身のホクロにタトゥーで楽譜を刻んだ経験と、ツルツルの義体を抱えて生きる草薙素子の経験とを対照しながら語られる。そして堀川によるドイツの首都・ベルリンの墓地を訪ねた紀行文。様々な墓をめぐる旅中に、けっしてひとつではない肉体の行き先に思いを馳せる。そして特集の最後には、山﨑と堀川による交換日記が配置される。ふたりはダンス、食、セクシュアリティといった共通の話題から、交換不可能な身体のありかたを語らう。

どの記事も、私たちを取り巻く状況に対して、一直線に答えを導き出すようなものではない。むしろ印象的なのは、現実を前に戸惑いながらも、自分の足で少しずつ前に進もうとする構えだろう。ときに迷い、引き返しながら、ともにさまよってみてほしい。

図版_八木幣二郎[Heijiro Yagi]

橋本輝幸はしもと・てるゆき/1984年北海道生まれ。大学卒業後の2008年から会社員ときどきSF書評家・研究家。『2000年代海外SF傑作選』『2010年代海外SF傑作選』(早川書房)編者、『中国女性SF作家アンソロジー 走る赤』共編(中央公論新社)。また、『SFマガジン』、『TOKION』ほか、数多くの書籍・雑誌・媒体に寄稿。日英の2言語で世界のSF作品を紹介する『Rikka Zine』を主宰。

堀川夢ほりかわ・ゆめ/1993年生まれ。北海道出身、東京都在住。出版社勤務を経て、SF企業VGプラス所属の編集者、ブックキュレーター。フリーランスとして翻訳や選書、書評執筆なども行う。海外文学とドイツと西洋美術と短歌とダンスと銭湯とまぐろのお刺身が好き。